伝統と革新

 伝統と革新、お互いにお互いの対義語として使われる言葉です。「伝統を守る」、「技術革新を引き起こす」といった使われ方をします。「伝統を守る」はいい意味で使われることが多いのですが、「旧套墨守」や「守株」のように悪い意味にも使われます。革新も同様です。
 伝統、革新ともにどういう時にいい意味や悪い意味になるのでしょうか。
 あるところに江戸時代から続く二つの和菓子屋さんがあります。一つは江戸時代からの和菓子の製法を忠実に守っており、もう一つは新しい製法や材料を次々と取り入れてユニークな和菓子を作っています。つまり伝統的な店と革新的な店というわけですが、全く対照的な経営でありながら、どちらもよく繁盛しています。なぜでしょうか。
 他にもいろいろな理由があるかも知れませんが、私は両店とも目標を立て、それに向かって一生懸命取り組むという姿勢が同じだからではないかと思っています。両店のご主人に聞いたところ、お二人とも「お客様に喜んでもらえる、満足してもらえること」という答えが返ってきました。「お客様に満足してもらう」、この目標は全てのお店に通じるものだと思いますが、これを達成するために、一方は伝統を厳格に守り続け、もう一方は新しい味に挑戦し続けているのです。そして、その目標が伝わるからお客さんが来てくれるのでしょう。
 つまり、伝統と革新というのは目標達成のための方法論に過ぎず、大切なのはしっかりと目標を立て、それを達成するために努力することではないでしょうか。
 向陽高校は105年の歴史と伝統を誇りますが、それは生徒の皆さんがそれぞれの目標に向かって一生懸命取り組んだ105年間だったということだと思いますし、その姿勢が変わらない限り、今後も時には伝統を守り、時には革新を引き起こしながら学校として続いていくのだと思います。

2020年11月09日